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死龍の社
――また、夏がやって来た。
逃げ水が泳ぐこの土地で、
君の影だけ、見つからない。
全て始まりは、単なる偶然の重なりだった。
高校一年の夏休み。
主人公は補習で使う古語辞典を探すうちに「ある人物」の
部屋で思いがけない物を見つける。彼女が拾い上げたそれは
――――”…死にたくなければ、近寄るな。”
頑なな両親の言葉に閉ざされた、古い蔵の鍵だった。
少女が佇む無人の部屋は、虚ろに主人の帰りを待つ。
にわかに記憶へよぎるのは、最後に交わした「また明日」。
神楽が響く夏の日に、不帰(かえらず)になったその背中。
「ちひろちゃん」
小さな鍵を握りしめ、少女は静かに視線を上げる――――
「あの日」に起こった事実が知りたい。
偶然が繋いだ一縷の望みが、少女を願いに駆り立てた。
そして少女は、本と埃の間に埋もれた、
懐かしい筆致を胸に抱く。
” 社に 行かないと。 ”
彼女の足が向かう先は。
「生者を取り込む禁足の地は、かつての惨禍を繰り返す。」
…それでも”願い”は社に集う。
「救い難い」と打ち捨てられて、
祈りが錆びても、嘆きが嗄れても。
足掻けるならば、―――何度でも。
その手を繋ぎ戻すために。
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